あそこで久保を使っていたら、どうなっていただろう。塩貝健人の決勝点には、ゴールの喜びだけでは片づかない面白さがある。
1対1の終盤。塩貝健人は前を向き、右には久保建英らが空いていた。ところがパスは出さず、自分で仕掛けてボールを失う。しかも一度ではない。点を取りたいのは分かる。でも今は親善試合の練習時間じゃない。同点のまま試合が終わりかねない時間に、見えている味方を使わずロストを重ねたら、「ストライカーだから」で済ませるわけにはいかない。
だからこそ、フットボールチャンネルの試合後取材[1]にある塩貝の言葉が引っかかった。「点が点が」となると、ボールしか見えなくなった。外の味方は、使わなかったというより見えていなかった。本人がそう認めている。
その直後に決勝ゴールを決めた選手の反省としては、拍子抜けするほど率直だ。そして、そのゴールの形をたどると、この話は「パスを出さなかったけど、決めたから正解」で終わらない。
失った二度と、決めた一度は別のプレーだ
塩貝は83分に入った。残り時間はわずか。代表で点が欲しい21歳が、ボールを持てば前へ前へと向かう。気持ちは伝わる。だが、気持ちだけでは相手は抜けない。左から仕掛けて奪われる。もう一度、抜き切れずに失う。終盤の同点ゲームで続けて起きたら、まず味方を使ってほしくなる。
FOOTBALL ZONEの試合後取材[2]で久保は、塩貝にはパスを出すべきだったと伝えたことを明かしている。一方で、結果を引き受けて自分で決める姿勢は、ストライカーに必要だとも評価した。褒めているのか、注意しているのか。両方だ。そこがこの場面を面白くしている。
前を向いたFWが毎回、安全なパスに逃げていたら怖くない。だからといって、横にフリーの味方がいるたびに視界から消していいわけでもない。久保の評価を、強引に仕掛け続けてよいという免許に読み替えるのは違うだろう。自分で勝負する責任を持ったこと。そして、その勝負を最後にゴールへ変えたことだ。二度のロストは二度のロストとして残る。
ここを混ぜると、塩貝を妙な方向に甘やかしてしまう。結果が出たから全部正解、では次も同じプレーを繰り返す。逆に、ロストしたから個人で仕掛けるな、ではあの選手の武器を削る。見たいのは、勢いを消した優等生でも、周りを見ない突撃役でもない。
決勝点では、上田に預けた
後半追加時間。伊東純也からボールが入る。塩貝はそこで抱え込まず、上田綺世へ預けて動き直した。上田からリターンを受けると、今度はゴールキーパーとの一対一を仕留める。日本サッカー協会の試合記録とレポートにも残る、90分+1分の勝ち越し点だ。
この得点の連係は、JFAの公式試合レポート[3]でも確認できる。
86分には久保のスルーパスから上田が決定機を迎え、シュートは枠を外れている。だから「味方に出しておけば確実だった」も、試合を終えてからの都合のいい言い方だ。パスを出しても点にならないことはある。それでも塩貝は上田に預けた。上田も、そのボールを返した。先ほどまで二度失っていた若いFWに、もう一度ゴールへ走る道が開いた。
あの数秒を「塩貝が黙らせた」の一言で片付けたくない。伊東が入れ、上田が返し、塩貝が決めた。独りで勝負したかった選手の決勝点が、三人でつないだ形だったのだから。皮肉じゃなく、そこが熱い。
ここが一番ぐっとくる。久保へのパスを出せずに二度失った選手が、勝負を決める場面では味方に預けてから、自分で決めた。パスかシュートか、という二択ではなかった。パスを使って、より鋭いシュートの場所へ入ったのだ。
このワンツーだけで「塩貝は試合中に反省して成長した」と断言するのは早い。どの程度その場で判断を変えたか、本人の頭の中は分からない。ただ、ピッチで起きたこととして、失った場面と決めた場面にははっきり違う選択がある。その違いを飛ばして「強引なドリブルでも点が取れれば正義」と書いてしまうのは、もったいない。
ゴールを奪ったのは塩貝の右足だ。その直前に上田を使ったから、塩貝の得点の価値が薄くなるわけじゃない。むしろ逆だ。自分で撃ちたい選手が、撃つために一度ボールを手放せた。あの一瞬のほうに、次も代表で点を取るためのヒントがある。
「黙らせた」で終われないから、次が見たい
塩貝は得点後、口元に指を当てた。FOOTBALL ZONEの本人取材[4]では、所属リーグや代表選出をめぐる批判に悔しい思いをしていたこと、ゴールパフォーマンスに込めた思いが報じられている。代表4試合目の初ゴールで、しかも勝ち越し点。胸の中に溜まっていたものが噴き出しても不思議ではない。
あの仕草だけで話を収めたくはない。点が取れない時期を経て、代表で点を取った。その高揚まで無かったことにしたら、何を楽しみにストライカーを見るのか。
でも、あの一発で全部黙る必要もない。二度のロストはあった。FOOTBALL ZONEの本人取材[4]で、塩貝は名波浩コーチや長谷部誠コーチらから判断について指摘されたと話している。久保も注意した。本人も改善点と認めた。批評する余地が残っているのは、ゴールの価値を否定することではない。次も使われ、次も決める選手になってほしいからだ。
次は9月28日のベネズエラ戦。もし出場機会が来たら、最初の仕掛けで何を見るかに注目したい。フリーの味方がいれば預け、空いた場所へもう一度走れるか。自分で抜ける場面では迷わず抜き、最後は撃てるか。ウルグアイ戦の得点を再現することだけが課題ではない。得点の前にあった二度のロストを、次の一手でどう変えるかだ。
伊東が入れ、上田が返し、塩貝が決めた。自分で仕掛けて失った場面も、味方とつないで決めた場面もあった。あのゴールは塩貝自身への宿題も残している。だから次が見たい。
出典
[1] フットボールチャンネル:2度のロスト、それでも最後はゴール。今の日本代表が塩貝健人の“粗さ”を許容できる理由
[2] FOOTBALL ZONE:チャンスでパス出さず「言いましたよ、それは」 久保建英、塩貝の姿勢は「ちょっとカッコいいなと」
[3] 日本サッカー協会(JFA):【Match Report】SAMURAI BLUE、松木選手、塩貝選手ら新戦力が活躍、ウルグアイ代表に勝利で新たな一歩
[4] FOOTBALL ZONE:塩貝健人、批判殺到で“家族も心配”「それが一番悔しかった」 パフォ意図は「あの1点で黙らせる」

